こんな瞬間があるのか

私の腹の傷の間から取り出されたとき、彼女は深い眠りから無理やり起こされた人のように、とても迷惑そうに、眩しそうな顔をしていたのを覚えている。

あっという間の出来事だった。ものの5分ほどだっただろうか。10か月間、日々恐れていた出産の痛みも、腹を切られる直前に感じた、高所から飛び降りるよう命令されたかのような恐怖も、何もかも嘘のように、あっけらかんと彼女は取り出された。

腹を切られているという、日常生活ではまず経験し得ない異常事態の真っただ中にいたせいか、脳が興奮していたのだろう。待望の我が子との対面に感動する余裕はなかった。

想像していたのとはかなり違った光景が、怒涛のように流れていった。要は、めちゃくちゃ淡々と、てきぱきと進んでいたのである。そうしないと、傷が開いたままの私は死んでしまうからだ。体感はまったくなかったが、実際には大量の血液が流れていたらしい。

しかし、初めて見た彼女のあのなんとも不愉快そうな表情は、一生忘れないだろう。赤ちゃんって、生まれたときあんな表情をするんだ……と、これまたあっけにとられた。

無事に出産を終え、言われなければ何なのかも分からない、レバー状の胎盤を無理を言って見せてもらい、切り開いた腹部を縫合された。

某流行り病にかかって急遽行われた帝王切開だったので、そのまま我が子とは離れ、10日後に再会することとなった。

初めて経験した下半身麻酔は、ゆっくり温泉に浸かった後のような、足先の筋肉がほどけていく極楽感を味わわせてくれた。イメージしていた地獄のような激痛とは、これまた程遠かった。どうやら麻酔医の腕次第では吐き気が止まらなくなることもあるらしいが、私は運が良かったようだ。

とはいえ、麻酔が切れた翌日からの48時間は、経験したことのない激痛をたっぷり味わったが。

映画でしか見たことのないような、「キープアウト」と書かれたベタな黄色いテープが貼られた廊下の奥、完全に隔離された病室に戻された。

翌日、私と同じように流行り病に感染し、帝王切開を終えた女性が私と同じ病室に運ばれてきた。彼女に痛みが来るまでの流れと、その痛みをなんとかして凌ぐための対処法をレクチャーしながら、まるでその女性と世界でたった二人きりになったかのような気持ちになっていた。

とはいえ、30年生きてきた中で、経験したことのないことだらけの数日間だった。出産時からずっと妙な高揚感があり、こんな新しい瞬間がまだあるのかと思うと、これから先もまだ知らない瞬間に出会えるのなら、生きていくのが楽しみだと思った。

娘は今頃何をしているだろうか? 授乳とはどのような感じなのだろうか? そんなことをひたすら考えながら、電波も届かず、医者や看護師でさえ一日に二度来るかどうかという、完全に世界から切り離されたような病室の窓から、外を眺めていた。

我が子に会うまでの日数を指折り数えながら。止まらぬ咳と連動して痛む腹部の疼きにおびえながら。殺風景な遠い夕焼けを眺めていた。

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